段々と日が傾いてきたのか、俺の部屋の窓からオレンジ色の光が差し込んできた。
窓が西側に面している俺の部屋は夕方になると日が差し込んできて暑い。


暑い。


段々と寝苦しくなってきたのか、そう感じた所で俺の頭は覚醒した。
何度か目を意識的に瞬きさせて歪んでいる世界を調整。
すると、目の端に扇風機との後頭部が映った。


「あ、ー扇風機こっち向けて」


「……」


「てめ、無視かよ」


俺がベッドから体を起こして声をかけたにも関わらず、一向に無視。
は俺を気にする様子もなく、床に寝そべって本を読み続けている。
扇風機の首は当然のことながらの方を向いていて涼しそうに髪が揺れている。

襲うぞコラ。

つい、制服のスカートから覗く足へと目が行ってしまう。
リズム良く足が上下に揺れスカートまで動いて、見てられなくて目を反らす。
けど、やっぱり目が行ってしまって内心慌てる。

が返事をする様子は欠片さえもなくて俺ばっかりがを好きな気がしてくる。
なんで俺よりもそんな本ばっか見てんだよ。
こっち向いてちゃんと俺と会話しろよ。
考えれば考えるほどに対してイライラしてきてつい荒い声をあげてしまった。


「大体俺の部屋に来たいっつたのはお前だろ!なのに本読んでンじゃねえよ」


「だって、榛名が寝たんじゃん。疲れたーとか言って」


ベッドから足を放り出して座ってを見下ろすも、は未だに本の虫。
こっちに顔を向けようともしてくれないけど、今の台詞に俺は少し機嫌がよくなる。
ああ、こいつ俺が寝ちゃったから拗ねてんだ。

まあ、確かにここんとこ練習で疲れてたから眠くなるのは仕方ないとして。
折角が来てくれてんのに寝るのは不味かったよな、そりゃ。


「なにお前、構って欲しかったの?」


「別にー。それよりあたし真面目にこの本読んでんだから邪魔しないで」


「何読んでんだよ」


「その辺にあった本」


まさかエロ本だったりはしないよな?
いや、が部屋に来ることになってやましいモンは全部押入れにしまったからあり得ない。
それは絶対にない。

まあ、俺が寝てる間にが部屋を漁ったならあり得なくもないけど。
はそんなことするような奴じゃねえし……。
でも、何読んでるかは気になるよな。


「その辺にあった、って興味ないならいいじゃねえか」


「ちょっと!読んでんだから取らないでよ!」


「……野球ルール入門?ぶっ!これ俺が中学ん時のじゃん、古っ!」


取り上げるようにしての手元から本を抜き取って題名見て俺は笑った。
だって《野球ルール入門》ってルールブックだったから。

基本中の基本ばっかり書いてあるアレだ。
別に読まなくても分かるっつーのに、先輩から押し付けられたんだっけ、確か。
読んどいて損はないとか何とか言われて。

でも、俺……読んだ記憶ねえや。


「ちょっ、返してよ!」


取り返そうと必死に手を俺のほうへと伸ばしてくるを軽くあしらって言葉を続ける。
パラパラとページをめくりながらの手が届かない方向へと体ごと向けた。
はそれを取り返そうと必死に俺にしがみついてくるもんだから、俺のほうが内心どぎまぎ。

身体近えし……なんか良い匂いもするし、柔らけえ。


「あー、俺捨てないで取ってたっけ。へー懐かしー」


「もう!読んでないで返してよ、あたしが読むんだから!」



が?野球の本を?
というか、ルール知らないし、野球に興味ないんじゃねえの?
俺の部活も見に来ないし、試合にも来てくんねえし。

あ、もしかして。


「お前さ、野球のルール覚えようとしてくれてんの?」


「別に榛名のためじゃないけどね」


「お前マジ可愛い!超可愛い!」


「っ!くっつかないで、恥ずかしい!」


後ろから抱き着いて頭をぐちゃぐちゃに撫でてやると、じたばたとが暴れた。
恥ずかしいのか遠慮なく俺を叩いてくるけど、俺は離してやる気はない。

だって、マジで可愛いと思ったから。

が俺を通して野球に興味持ってくれたっつーか、知ろうとしてくれてる今の状況。
俺ばっかりが好きじゃなかったんだ、って思ってかなり嬉しい。
俺のこと好きじゃなかったらわざわざ知らない野球の本なんか読むわけないし。


「つか、こんな本読むより試合見たほうがぜってーはえー」


「そ、そう?」


俺の言葉にはやっと顔をあげて俺を見た。
照れたような困ったような瞳で俺を見上げてきて、軽く笑う。

ルールブック読んだって忘れちまうのが普通だし、何より俺の方見てくれるだろ。


「勿論。つーわけで、試合見に来いよ。俺出るし」


「いつの?」


「これからずーっと全部俺が出る試合全て」


「榛名が出るの全部?」


「俺がプロになっても全部だかんな!」


「……それまで一緒にいるか分かんないよ?」


「居るに決まってンだろ。俺が離すわけないし」


「……うん」


そう頷いて照れたように笑うをまた思い切り抱きしめた。

俺のこともっと知って欲しい。
もっと見て欲しい。

んで、俺とずっと一緒に居て欲しい。

野球のルールなんて俺が全部教えてやるから、本なんかより俺を見て。





野球初心者入門

(2007.08.28)