俺の彼女は、可愛いくて運動神経抜群だけど勉強ダメな女の子。
勉強がダメなところもすっげ可愛い欠点だと俺は思ってる。
「はーなーいーっ!」
教室の入り口から俺を呼ぶ声がする。
声はするけど俺はどうにも眠くて……眠くて……。
「花井、花井、花井、花井ーっ!」
バンバンバンバンッ
俺を呼ぶ声はすぐ目の前まで迫ってきていて、机を叩きながらリズム良く俺を呼ぶ。
それでも俺が夢の世界から抜け出さないもんだから今度は俺を揺さぶり始めた。
ちょっ……寝起きでそれは脳みそがシェイクされてキツイ。
仕方なく俺は身体を起こして正面に座る彼女のを視界に映した。
俺が寝起きだからそう映るのかもしれないけど、は今にも泣き出しそうな顔をしている。
こりゃ寝てる場合じゃないかな。
「んだよ、人が折角寝てるってのに」
「どうしよ、どうしよ、どうしよ、どうしよ」
本当は「どうした?」って聞こうと思ったけど睡眠を邪魔されてつい意地悪な言葉をかけた。
けど、は一向に気にする様子もなく、というかむしろスルーして騒ぎ立てる。
涙目で見られても俺には一体何がどうしてこうなっているのか微塵も分からないんだけど。
とりあえず落ち着いて話してもらわない限り理解は不可能だと判断した。
慌てふためくの背中に手を回して子供をあやすように撫でてやる。
「いや、あのな、まず落ち着いてくれ」
「うん、分かった……ってか、落ち着いてられるわけないでしょっ!」
「一人ノリツッコミか?」
落ち着いてくれたのかと思いきやまた大声を発するに周りの目が痛い。
同じ野球部の水谷や阿部も俺を助けてくれることなく、ニヤニヤとした笑みを浮かべて見学中だ。
自分の彼女だから自分でどうにかするのは当たり前だけど、さすがにこれはないだろ。
取り乱した、つか……なんだかいっぱいいっぱいのは話を聞こうともしてくれていない。
でも、そのくせ俺がツッコムとムッと唇を歪めて面白くなさそうな表情を作る。
一体俺にどうして欲しいんだ?
「って、そうじゃなくて、話聞いてってば!」
「お前がさっきから一人で騒いでるんだろ」
「あ、そっか。そうそう、それでね、赤点取っちゃったわけよ。見事3つ」
「赤点くらい仕方ねぇよ……って、3つもかよ!」
ギリギリじゃねぇか!
そう叫びたくなるのも仕方ないと思う。
だって、西浦は赤点4つあったらその時点で留年が決定するんだから。
それなのにこの危機感の無い俺の彼女は悠長にも笑っている。
さっき慌ててたのは一体何だったんだ?
「おおー、花井もやれば出来るじゃん。一人ノリツッコミ」
「るせーよ。で、教科は何?」
「え、怒んないの?」
俺の反応には不思議そうに首を傾げた。
いや、お前の赤点が俺が怒ってどうにかなるなら怒るけどさ。
それよりも彼氏としては留年して欲しくないし、心配するに決まってるだろ。
それにお前が試験で赤点取ってないことなんて今までないからな。
今までは1つか2つだったけど……さすがに3つは初めてだ。
「はぁ。今更だろ、お前が赤点取るのなんていつものことだし。ほら、教科は」
「んとねー……英語と古典と数学」
俺の机の上に広げられた答案用紙には27、31、23と壊滅的な数字。
せめて1・2点足りなくて欠点とかならまだ何とかなるもののこんな悲惨だとは俺も思わなかった。
つか、文系教科も理系教科もダメとかこいつ文理に分かれるときどうするつもりなんだよ。
俺は勿論文系だろうけど……こいつもやっぱ文系だよな?
数学のほうが壊滅的なわけだし。
「んなバラけてんのかよ。お前全体的にダメなのな」
「違うよー、私はテスト前勉強しないからダメなだけだもーん」
「勉強しろよ」
「だって、楽しくないんだもん」
勉強しないからダメ、と胸張って言うに少し情けなくなる。
何で俺の彼女ってこんなバカなんだろ……いや、そこが可愛いんだけどさ。
しかも、勉強しろって言ったら楽しくないって小学生かよ。
いや、さすがに最近の小学生でも言わないかもしれない。
「楽しけりゃ勉強すんのかよ」
「うん」
「だったら、試験前三橋ん家に集まったとき一緒来りゃ良かったじゃねえか」
「野球部の集まりを邪魔するわけにはいきませんから」
「んだよ、お前がそんなこと気にするタマかよ」
勉強に邪魔も何もないし、得意不得意があるから大人数で勉強すればカバーし合えんのに。
それを一々気にして遠慮するなんて珍しい。
俺が頬杖をついて綾香をじっと見つめていると、綾香は頬を赤くしてこう答えた。
「花井に迷惑かけたくないですから」
思いがけないの可愛い答えに俺は一瞬頭がショートした。
赤くなる頬をポリポリと掻いて、から目を反らした。
「ま、お前が赤点とって勉強教えなきゃなんないなら一緒だけどな」
「あー……そだね」
俺の言葉にはハッとしたように息を呑んで目を泳がせた。
結局迷惑かけるならいつだって一緒だろ、って言ったのと同じだ。
フォローするべきなんだろうけど、甘やかすと綾香の為にならないから少し迷った。
迷った結果、やっぱり俺はに対して甘いらしく今回も教えてやることにした。
そうすることで普段野球の練習で会う時間も作ってられないから丁度良いし。
追試まで毎日顔合わせて勉強できるなんて儲けものだ。
「なんだよ、その気の抜けた返事はよお」
「赤点取ったら勉強教えてもらえるから一緒に居れるとしか考えてなかったからさ」
「っ……お前なんかそれはそれで恥ずかしい」
「分かった!じゃあ、今回は自分で勉強するからいいや」
「え、ちょっ、待てって」
「ごめんね、私ちゃんと勉強するから野球頑張ってね!花井に会うのも我慢するから」
の意外な返事に俺が呆けていると、その間には教室から出て行った。
頭の中が真っ白になって机にバタリと倒れこむ俺を水谷が突いてきたので一発殴ってやった。
つか、それ本気で?
結構俺、勉強教えるの楽しかったんだけど……マジかよ。
アイツが真剣に問題解いてる表情とか盗み見れんの特権だと思ってたのに。
しかも、追試まで、って一週間くらいだろ?
それまで俺に会うの我慢するって……嘘だろ。
なんか俺すっげぇ損した気分なんだけど。
「はーなーいーっ!」
一週間ぶりに彼女が俺のクラスへと顔を出した。
その顔はもうすっげえ笑顔で、見てる俺まで幸せになれるほど威力絶大。
「なんかすっげ久々な気ぃすんだけど」
「へっへー。ま、その分頑張ったんだよ、勉強」
「おつかれさん。で、結果返ってきたのかよ」
「勿論。見る?見たい?」
「見せれる点数なんだろな?見せてみろよ」
どうせ40点ギリギリかそこらだろ?
いくら追試のほうが簡単だからって言ってものことだからなぁ。
それに一人で勉強して良い点数取れるなら本試験のときにしてるだろうし。
「じゃじゃーんっ」
そう言って彼女が俺に突きつけた答案は丸が沢山。
そして、点数の所へ目を映して俺は固まった。
英語88点。
古典96点。
数学84点。
「……お前さ、本当は赤点とるわけないだろ?」
「えへへ」
何も答えずに笑うはきっと肯定を促しているんだ。
そうだ、三橋や田島よりも頭が悪いならきっと西浦に入れてない。
というか、大体いつも追試の勉強を教えるにしろ、こいつは飲み込みが早かった。
もしかして理解しているのにわざわざ俺を教えを請うてたのか?
なんだか聞きたいことが一気に増えてまとまらなくなった。
けど、これだけは聞いておかないとダメな気がして俺は重い唇を開いた。
「実は俺より頭良かったりするだろ?」
「あはは」
やっぱり彼女は笑うだけで肯定を表していた。
俺は何だか情けなくなって机に伏せて零れ出しそうになる涙をぐっとこらえた。
その間中、は俺の頭を擦ってくれてて俺を更に惨めにさせた。
そうか、俺の彼女は、可愛くて運動神経抜群で勉強もできる女の子。
欠点なんてまるでないじゃないか。
散々馬鹿扱いしてきたけど、実は俺より頭良いなんて。
まじ勘弁。
今まで偉そうに教えてた俺の立場ないっての。
でも、これからは赤点取らなくても一緒に勉強しような。
そして、俺にも勉強教えてくれ。
本当は主席合格なの
(2007.09.30)